Sustainability

【サステナビリティ】現場のEHS責任者って何?どんなことをするの?

「EHS責任者って、結局なにをやってる人?」
サステナビリティ領域の求人や、海外プロジェクトのレポートを読んでいると、EHS(Environment, Health and Safety)という単語が当たり前のように出てきますよね。

結論から言うと、現場のEHS責任者は「環境(E)」「労働衛生(H)」「安全(S)」を、現場で回る仕組みに落とし込んで、事故とトラブルを未然に減らし、起きたら被害を最小化して、再発を止める人です。
サステナビリティの文脈では、ここに「人権・サプライチェーン・地域社会への配慮」までつながってきます(UNGPやOECDのデューデリジェンスの流れですね)。(ohchr.org)

この記事では、現場EHS責任者が「実際に何をしているのか」を、かなり現場寄りに分解して書きます。建設・製造・化学・エネルギー・鉱業など、現場産業に関わる人が読んでも「あるある」「それをやるのね」と腹落ちするところまで狙います。


EHS責任者の守備範囲は「事故ゼロ」だけじゃない

EHSは「安全担当」だと思われがちですが、現代のEHSはもっと広いです。ざっくり言うと、

  • S(Safety):転落、挟まれ、感電、火災、重機接触などの災害防止
  • H(Health):化学物質ばく露、粉じん、騒音、熱中症、腰痛、メンタル不調などの健康障害防止
  • E(Environment):排水、騒音・振動、粉じん飛散、廃棄物、油流出、化学物質漏えい、法令届出などの環境影響管理

この3つを「現場の工程・人・設備」に組み込む役割です。

国際的には、労働安全衛生の枠組みとしてILOの考え方があり(例:労働者に費用を負担させない等)、企業や現場の運用はISO 45001(労働安全衛生)やISO 14001(環境)といったマネジメント規格の思想で整理されることが多いです。(ilo.org)
さらに、海外案件やプロジェクトファイナンスが絡むと、IFCパフォーマンススタンダードやWorld Bank GroupのEHSガイドラインが「事実上の共通言語」になります。(ifc.org)


現場EHS責任者の「具体的な業務」一覧

ここからは「何をするの?」を、ありがちな順番で並べます。
ポイントは、EHSの仕事は「注意喚起」ではなく「仕組み化」だということ。注意喚起だけで事故は減りません。現場の制約の中で、やれる形に落とします。

1) リスクアセスメント(危険・有害要因の洗い出しと優先順位づけ)

現場のEHSの中核です。
日本の労働安全衛生分野でも、リスクアセスメントは「危険性・有害性の特定→見積り→優先度設定→低減措置→記録」という手順として整理されています。(anzeninfo.mhlw.go.jp)

現場では例えば、

  • 高所作業:墜落リスク(手すり、親綱、フルハーネス、足場点検)
  • 化学物質:溶剤・洗浄剤・塗料のばく露(換気、代替、保護具、SDS確認)
  • 重機:接触災害(動線分離、誘導員、死角対策)
  • 環境:油・薬品の漏えい(堤防、吸着材、ドレン管理、緊急手順)

みたいなものを、工程ごとに潰していきます。

ここで大事なのは「現場の人が守れる粒度」に落とすこと。
完璧な文書でも、現場が回らなければ意味がない。逆に、簡単なチェックリストでも、毎日回れば強いです。

2) ルール作り(手順書・許可制・標準化)

海外現場だと “Permit to Work(作業許可)” の文化が強いところがあります。
火気、密閉空間、電気作業、吊り作業、掘削など、重大災害につながりやすい作業は「許可を切ってからやる」方式にして、現場の判断だけで突入しないようにします。

ISO 45001のような枠組みは、こういう運用を組織の仕組みにする発想(方針→計画→実行→評価→改善)を提供しています。(iso.org)

3) KY(危険予知)・朝礼・教育(ただし「儀式化」を避ける)

KYって空気読めないじゃないです。(もう古くなっちゃった?)

教育やKYは重要ですが、形骸化しやすいのも事実。
EHS責任者の腕の見せ所は、ここを「現場の言葉」に翻訳することです。

For example,
「転落注意」ではなく「この足場板、昨日より浮いてない?ここ踏むと沈むよね」
「保護具着用」ではなく「この溶剤、皮膚障害化学物質の対象になり得るから手袋の材質はこれ」
みたいに、具体にする。

(日本だと化学物質管理の制度が「自律的管理(リスクアセスメントに基づく管理)」へ寄ってきていて、保護具・SDS・管理者選任などがより重要になっています。)(mhlw.go.jp)

4) 現場巡視・是正(パトロールして終わりじゃない)

巡視で危険を見つけるのはスタートです。
重要なのは「是正の追跡」と「再発防止の仕組み化」。

  • 指摘 → 期限 → 担当 → 完了確認
  • 似た作業へ水平展開(他班・他現場へ)
  • なぜ起きたか(教育不足?設備不足?工程が無理?)

このあたりまで回して、初めてEHSの価値になります。

5) 事故・ヒヤリハット対応(初動、調査、再発防止)

事故が起きたとき、EHS責任者がやることは「犯人探し」ではありません。
二次災害を止め、事実を集め、原因を構造で捉え、再発防止を現場に実装します。

国や地域によっては、当局報告の要件が厳格です。EUの大事故防止(Seveso III)などは「重大事故ハザード」を制度として管理します。(echa.europa.eu)
米国でも、雇用者の一般的な安全配慮義務(General Duty Clause)の考え方が明確です。(osha.gov)

6) 環境管理(廃棄物・排水・化学物質・騒音など)

サステナビリティ読者向けに強調すると、ここが「環境マネジメントの現場実装」です。

  • 廃棄物の分別と委託管理(マニフェスト等)
  • 排水の濁度・pH・油分など(現場なら簡易測定+異常時対応)
  • 土壌・地下水リスクがある現場なら、掘削土の管理
  • 騒音・粉じんの苦情対応(近隣説明、モニタリング、工程調整)
  • 化学物質の保管、漏えい時の初動(吸着材、堤防、回収手順)

ISO 14001の思想も「法令順守+継続的改善」を軸にしていて、現場に落とすと結局こういう運用になります。(iso.org)

7) サプライヤー・協力会社管理(実はここが難所)

重大事故の多くは、元請・下請・孫請が混在する現場で起こりやすい。
だからEHS責任者は、協力会社の教育・適格性確認・ルール統一・作業間調整をやります。

国際的な投資・融資が絡むと、IFC PS2(労働・労働条件)などの要求で「自社だけでなく、サプライチェーン上のリスク」も意識する必要が出ます。(ifc.org)
この流れは、UNGPやOECDのデューデリジェンスでも同方向です。(ohchr.org)


ある日のEHS責任者(ざっくり時系列)

現場によって違いますが、イメージをつかむために例を置きます。

  • 朝:朝礼、当日の危険作業の確認、作業許可の整理
  • 午前:巡視(足場、重機動線、保管庫、排水・仮設設備)、是正指示
  • 昼:協力会社ミーティング、ヒヤリハット共有、教育の設計
  • 午後:事故・苦情対応、当局・顧客への報告資料、監査準備
  • 夕方:是正完了確認、翌日のリスク確認、記録の整備

「現場を回る」と「文書・記録を整える」を両立するので、忙しいです。
ただ、忙しいからこそ「仕組み」で回す。属人的に頑張るだけだと、いずれ破綻します。


グローバル基準で見る「EHS責任者が求められる理由」

サステナビリティの観点で、EHS責任者が重要視される理由をもう一段上から見ます。

ISO(マネジメントシステム):現場を回すための骨格

  • ISO 45001:労働安全衛生マネジメントの要求事項(リスク管理と継続改善)(iso.org)
  • ISO 14001:環境マネジメントの要求事項(法令順守と継続改善)(iso.org)

EHS責任者は、この「骨格」を現場の工程と設備に翻訳します。
認証取得のため、というより「現場の意思決定をブレさせない」効果が大きいです。

ILO・EU・米国:最低ラインを決める考え方

  • ILOの労働安全衛生条約(C155)は、国家と職場の枠組みを示します。(ilo.org)
  • EUの枠組み指令(89/391/EEC)は、労働者の安全衛生改善を促す枠組みです。(eur-lex.europa.eu)
  • 米国OSHAの一般条項は、雇用者が認識された危険から労働者を守る義務を明確にします。(osha.gov)

つまり「ちゃんとやってね」ではなく、「やる責務がある」。EHS責任者は、その責務を現場で実装する役目です。

IFC・エクエータ原則:海外案件で一気に重要度が上がる

資金が国際金融に接続すると、ルールは一段厳しくなります。

  • IFCのEHSガイドラインは、国際的に「良好な国際産業慣行(GIIP)」として参照されます。(ifc.org)
  • エクエータ原則(EP4)は、プロジェクトファイナンスにおける環境社会リスク管理の枠組みで、IFCパフォーマンススタンダードやEHSガイドラインを参照します。(equator-principles.com)

ここでのEHSは「現場の安全」だけでなく、地域住民・労働者の権利・情報公開・苦情処理など、広義の「社会面」も絡みます。現場のEHS責任者が、サステナビリティと地続きになる瞬間です。


日本の事例:建設・製造現場でEHSがどう位置づくか

日本は日本で、制度がきれいに積み上がっています。現場EHSが関わりやすいポイントを絞ります。

建設現場:統括安全衛生責任者・元方の枠組み

建設の混在作業は、リスクが跳ね上がります。
このため日本では、元請側が安全衛生を統括する枠組みが制度上も整理されています(協議組織、連絡調整、巡視、教育の指導援助、工程や設備配置計画の調整など)。(mlit.go.jp)

現場の呼び名は会社で色々ですが、実態としてEHS責任者は、

  • 協力会社を含む安全ルールの統一
  • 混在作業のリスク調整(動線、時間差施工、立入管理)
  • 高リスク作業の許可と監視

を握ることになります。

化学物質:自律的管理の流れで「現場EHS」の専門性が上がる

近年の化学物質規制は、「個別規制だけに頼らず、リスクアセスメントに基づく自律的管理へ」という方向が明確です。(mhlw.go.jp)
現場で効いてくるのは、SDSの運用、ラベル、保護具選定、局排・換気、保管、教育、そして「管理者の選任」などです。(jsite.mhlw.go.jp)

これ、サステナビリティの話にも直結します。化学物質管理が整うと、漏えい・廃棄・排水など環境面の事故も減るからです。

PRTR:環境リスクを「見える化」して管理改善を促す制度

PRTRは、事業所から環境へ排出される化学物質の量や、廃棄物として事業所外へ移動する量を、事業者が把握し国に届け出、国が集計・公表する制度です。(meti.go.jp)
ここは環境担当の仕事、と思われがちですが、現場の保管・移送・漏えい防止と切り離せません。現場EHSが「日々の運用」を握っていないと、数字も改善もしません。


どんなスキルが必要?「強いEHS」の共通点

現場EHSは、資格だけで決まる仕事ではないです(もちろん必要要件がある現場もあります)。現場で強い人の共通点を挙げます。

  • 現場理解:工程、職種、道具、作業姿勢、段取りがわかる
  • 翻訳力:法令・規格・顧客要求を、現場の手順に落とす
  • データ感覚:災害率、ヒヤリ件数、是正完了率、ばく露評価などを追える
  • コミュ力:叱るのではなく、納得して動いてもらう
  • 緊急対応:初動の冷静さ、指揮命令系統、外部連絡

そして、サステナビリティ文脈で効いてくるのは「人権・デューデリジェンスの理解」です。UNGPは、企業に人権尊重責任とデューデリジェンス、救済へのアクセスを求める枠組みとして参照されます。(ohchr.org)
OECDのガイダンスも、負の影響を特定し、防止・軽減し、追跡し、説明する、という流れを整理しています。(oecd.org)
現場の安全衛生が弱い会社は、だいたい人権面でも火を吹きます。逆もまた然りです。


「EHS=コスト」じゃなく「現場の損失を止める投資」

ここ、個人的には強く言いたいポイントです。
EHSは「やらされ仕事」になった瞬間、弱くなります。でも現実には、事故はコストの塊です。

  • 人のケガ・健康障害
  • 工期遅延
  • 設備損傷
  • 行政対応、顧客対応
  • 信用毀損(海外だと案件停止もあり得る)

だから、EHSは「現場の生産性を守る仕事」でもあります。
安全が整うと、段取りが整って、手戻りが減って、現場の空気が落ち着きます。これは数字に出ます。

そして、その延長線にサステナビリティがあります。
現場のロスが減ると、材料ロスや廃棄物も減ります。漏えいが減ると環境影響も減ります。苦情が減ると地域との関係が改善します。結局、全部つながっています。


よくある誤解:EHS責任者は「現場の敵」ではない

最後に、EHSが嫌われるパターンも正直あるかもしれません。

  • ルールだけ増やして現場を止める
  • 書類だけ増やして現場の負担にする
  • 事故のときだけ出てきて説教する

これだと、EHSは機能しません。

良いEHSは、現場を止めるのではなく「止めなくていい状態を作る」。
段取りと設備と教育で、危ない橋を渡らない現場に寄せていく。
その上で、どうしてもリスクが残るなら、残余リスクを見える化して、合意して、監視してやるということではないでしょうか。

この姿勢が、サステナビリティに一番近いと思っています。
きれいな理念ではなく、毎日の運用で「人と環境に無理をさせない」方向へ寄せていく。小さいけど確実な前進ですよね。


参考文献

  1. International Labour Organization. (1981). Occupational Safety and Health Convention, 1981 (No. 155). https://www.ilo.org/media/107601/download
  2. International Labour Organization. (n.d.). Global Ratification Campaign on C155 and C187. https://www.ilo.org/topics-and-sectors/safety-and-health-work/global-ratification-campaign-c155-and-c187
  3. International Organization for Standardization. (2015). ISO 14001:2015 Environmental management systems — Requirements with guidance for use. https://www.iso.org/standard/60857.html
  4. International Organization for Standardization. (2018). ISO 45001:2018 Occupational health and safety management systems — Requirements with guidance for use. https://www.iso.org/standard/63787.html
  5. International Finance Corporation. (2012). Performance Standard 2: Labor and Working Conditions. https://www.ifc.org/en/insights-reports/2012/ifc-performance-standard-2
  6. International Finance Corporation. (n.d.). Environmental, Health, and Safety (EHS) Guidelines. https://www.ifc.org/en/insights-reports/general-environmental-health-and-safety-guidelines
  7. Equator Principles Association. (2020). The Equator Principles (EP4). https://equator-principles.com/app/uploads/The-Equator-Principles_EP4_July2020.pdf
  8. Organisation for Economic Co-operation and Development. (2018). OECD Due Diligence Guidance for Responsible Business Conduct. https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2018/02/oecd-due-diligence-guidance-for-responsible-business-conduct_c669bd57/15f5f4b3-en.pdf
  9. Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights. (2011). Guiding Principles on Business and Human Rights: Implementing the United Nations “Protect, Respect and Remedy” Framework. https://www.ohchr.org/documents/publications/guidingprinciplesbusinesshr_en.pdf
  10. Occupational Safety and Health Administration. (n.d.). OSH Act of 1970, Section 5: Duties (General Duty Clause). https://www.osha.gov/laws-regs/oshact/section5-duties
  11. European Union. (1989). Council Directive 89/391/EEC on the introduction of measures to encourage improvements in the safety and health of workers at work. https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/ALL/?uri=celex%3A31989L0391
  12. European Chemicals Agency. (n.d.). Understanding Seveso (CLP/Seveso context). https://echa.europa.eu/regulations/clp/understanding-seveso
  13. European Commission. (n.d.). Industrial accidents (Seveso III Directive 2012/18/EU). https://environment.ec.europa.eu/topics/industrial-emissions-and-safety/industrial-accidents_en
  14. 厚生労働省. (n.d.). 「リスクアセスメント」職場のあんぜんサイト. https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo01_1.html
  15. 厚生労働省. (2022). 労働安全衛生法の新たな化学物質規制(資料). https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/000945523.pdf
  16. 厚生労働省(京都労働局). (2024). 令和6年4月1日から新たな化学物質規制が全面施行されます(資料). https://jsite.mhlw.go.jp/kyoto-roudoukyoku/content/contents/chemicalmaterial2024.pdf
  17. 経済産業省. (n.d.). PRTR制度. https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/prtr/index.html

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